大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和40年(行ウ)9号 判決 1967年7月31日

原告 大正鉱業株式会社

被告 北九州市八幡区長

訴訟代理人 斉藤健 外五名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、当事者の申立

1、原告

被告が昭和四〇年三月三一日原告会社所有の別紙第一目録記載の不動産に対しなした公売処分は之を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2、被告

主文同旨

二、請求原因

(一)1、原告会社は石炭の採掘ならびに販売を目的とする株式会社で、昭和二九年一二月四日開催の臨時株主総会において解散を決議し現在清算中であるが、原告会社は別紙八幡区役所滞納税金納入状況表のとおり滞納税金を納付していた。

2、被告は、原告会社に別紙第二目録記載の滞納税金があることを理由に、昭和三六年九月一二日原告会社所有の別紙第一目録記載物件に対し滞納税金徴収のため差押えをした。

3、次いで、被告は昭和四〇年三月一六日右差押えにかかる物件(以下本件差押物件という。)の公売をなす旨原告会社に通知し、更に同月二〇日原告会社に対し同月三一日に公売を実施する旨通知するとともに該公売の公告をなし、右公売期日に公売を実施した。

4、右公売による入札の結果、被告は原告会社に対し同年四月一日左記のとおり最高価申込者決定通知書により通知した。

(1) 仰木譲平外二名  北九州市八幡区上津役字風呂ノ元一九三四番地

宅地 四二坪外一筆

申込価格金二七五万円

(2) 林吉佐人     同所字向屋敷二、〇九三番地の一

宅地 一〇〇坪四合五勺

申込価格金八一万二、〇〇〇円

(3) 高松産業株式会社 同所字植松二、〇五二番地の一

宅地 三七六坪外二四坪

申込価格金三、一七四万七、〇〇〇円

(4) 神岡林      同所字風呂ノ元一八九一番地の一

宅地 四八五坪外一筆

申込価格金五四五万三、〇〇〇円

(5) 世取秀夫     同所字向屋敷二一〇二番地

宅地 一一四坪

申込価格金七六万三、〇〇〇円

5、原告は、右のように公売手続が進行するので、昭和四〇年四月三〇日北九州市長吉田法晴に対し右公売処分の取消を求めて審査請求をした。

しかるに、右審査請求につき同市長は同年五月二八日付裁決書をもつて原告会社の審査請求を棄却した。

6、その間、被告は4記載の(4)神岡林(5)世取秀夫に対する決定を取消し、他の最高価入札者に対し売却決定をし、昭和四〇年六月七日付配当計算書記載のとおり売却代金から原告会社にかかる昭和三五年度、同三六年度の滞納税金三四九万〇、七八七円の優先弁済をうけた。

(二)  しかしながら被告のなした右公売処分(以下本件公売処分と云う。)には次の違法事由がある。

1(イ)  被告が公売に対した原告会社所有の別紙第一目録記載の不動産(但し、27、28、29、の三筆を除く。)については、昭和三五年三月三一日福岡県労働金庫に対し被担保債権額金二、三四〇万円の第一順位の抵当権が設定され、続いて同年九月五日福岡銀行に対し被担保債権額金二億円の第二順位の抵当権が設定されている。

ところで、被告は原告会社が納付した滞納税金を納期の新しいものに充当しているが、被告が昭和四〇年三月三一日実施した公売処分当時には、原告会社の昭和三五年度の滞納税金は償却資産税本税二三万六、二六〇円、延滞金一五万一、二一〇円および督促手数料金二〇円の合計金三八万七、四九〇円であつた。したがつて、前記抵当権に優先して被告が原告会社から徴収しうる滞納税金は右合計金額に過ぎない。

しかるに、被告は敢えて差押物件である本件差押物件中三筆を除くその余の物件全部につき公売処分をした。しかしてその見積価格は合計金四、六八七万七、八四五円に達している。したがつて被告が他の債権に優先して弁済を受けるには本件差押物件の一小部分を公売すれば足りるところ、これを超過する本件差押物件より前記三筆の土地を除いた土地の公売処分は違法たるを免れない。

(ロ) 別紙第一目録記載27、38および39の固定資産評価格は

27については金一八万二、六〇〇円

38については金一五五万三、九〇〇円

39については金六三万一、一〇〇円

であり、右38、39の宅地については昭和三六年一月一〇日水巻町農業協同組合のため債権元本極度額金一〇〇万円の根抵当権が設定されているけれども、右三筆の固定資産評価格の合計は金二三六万七、六〇〇円に達する。右抵当権に優先する昭和三五年度の滞納税金三八万七、四九〇円を徴収するには別紙第一目録記載の物件とともに差押えされていた右三筆を公売することによつて充分目的を達しうる。然るにことさらに右三筆を除いてなされた公売処分は明らかに違法な超過公売である。

(ハ) 超過公売か否かは、公売当時における差押の原因である滞納税額と差押物件の価格とを比較して定むべく、その差押物件に滞納税額に優先する抵当権が存在する場合はその価格を差押物件の価格より控除して比較すべきもので、差押後の交付要求のあつた公租公課等を判定の基礎となるべき税額に加算すべきではない。

2、北九州市長は前記裁決書において、本件差押処分に対する審査請求は地方税法第一九条の三および第一九条の四第二号の制限があるため、差押に違法があつてもその違法性は遮断され公売処分に承継されないとして原告の審査請求を排斥した。しかしながら、国税滞納処分の例による地方税においても、国税徴収法第四八条により無益な差押および超過差押を禁止されているのであつて、その法意は単なる差押の制限にとどまらず、滞納処分一般についての原則でなければならない。もしそうでないと納税者からの異議がなければいかなる差押も公売もなしうることとなつて徴税の目的を逸脱することとなることは明らかである。

本件差押当時において原告会社としては、抵当権付債権の弁済によつて滞納税金の優先範囲が拡大するので必ずしも差押当初に異議の事由が確定するものでもないし、且つまた被告には無益な差押または超過差押をなすべからざる義務があり、公売処分に着手し得ないものである。したがつて本件差押は違法である。

3、仮に差押における瑕疵に対しては公売期日までに異議を申立てなければならないとしても、前記のような無益な差押または超過差押の瑕疵は差押の内容に関する瑕疵であつて、当然後行行為である公売処分に承継され公売処分そのものに瑕疵があることになり違法である。

三、被告の答弁および主張

(一)1、請求原因(一)の事実は認める。ただし、6のうち被告が売却代金から配当を受けた金額は金一八一万四、一五九円である。

2、同(二)1のうち原告主張の抵当権が設定されていたこと、本件差押物件公売時における原告会社の昭和三五年度の滞納税金等の合計額および右物件の見積価格がそれぞれ原告主張の金額であることは認めるが、被告が原告会社の納付した滞納税金を納期の新しいものに充当したことは否認する。被告が抵当権付債権に優先して徴収しうる滞納税額が原告主張の金額であるとの主張および本件差押物件の一小部分を公売すれば足りるとの主張は争う。

同(ロ)のうち38、39の宅地について原告主張のごとき抵当権が設定されていることは認めるが、公売に当つてことさらに原告主張の三筆の宅地を除外したことは否認する。

同23の主張は争う。

(二)  被告の主張

被告のなした本件公売処分は次に述べるとおり適法である。

1、本件公売処分に先行する差押は超過差押ではない。

原告は本件不動産の公売が行われた昭和四〇年三月当時の評価額を基準として超過差押であると主張するが、本件差押が行われたのは昭和三六年九月一二日であり、差押当時から公売時にかけて不動産の価格が著しく高騰していることは公知の事実であり、超過差押であるか否かは差押当時の物件価格と差押税額との比較において論ずべきものである。

ところで、被告が別紙第一目録記載の不動産を差押えた当時の原告の滞納税額は、金三五八万七、九九七円(滞納処分費金一〇〇円を含まない。)であつて、当時までの右滞納税金についての差押物件の見積価格から右滞納税金に優先する抵当権付債権額を差引くなどしたのち市税に充当しうる見込金額は左記の表記載のとおり、金三〇〇万〇、七五〇円にすぎず滞納税額に充たない状態であつた。したがつて超過差押とは云えない。

番号

差押年月日

差押物件

評価額

抵当金額

市税充当見込額

1

36・9・5

電話加入権(一本)

九〇、〇〇〇

九〇、〇〇〇

2

36・9・7

同(五本)

七〇〇、〇〇〇

七〇〇、〇〇〇

3

36・9・8

八幡区永犬丸字切塞二一六七番地の三

原野三町六反八畝ほか三筆

計 二二、四三八坪

一八五、九三〇

一八五、九三〇

4

同所一、〇六〇番地

山林七反歩

一七、四〇〇

中間市農業協同組合

三五、七、二八設定

元本極度

一五、〇〇〇、〇〇〇円

一七、四〇〇

5

同所二、一六五番地の二

原野一町三反三畝二〇歩

三三、二三〇

桑園富夫

三六、一、一四設定

元本極度

一、〇〇〇、〇〇〇円

三三、二三〇

6

36・9・12

八幡区上々津役字風呂ノ元一九三四番地

宅地四二坪ほか三七筆

計 七三四五坪二合

二九、三八〇、八〇〇

福岡県労働金庫

三五、三、三一設定

元本

二四、二〇〇、〇〇〇円

利息

三、八〇六、二一二円

二八、〇〇六、二一二円

福岡銀行

三五、九、五設定

元本極度

二〇〇、〇〇〇、〇〇〇円

一、二一六、一九〇

7

同所一八九一番地の一

宅地四八五坪ほか一筆

計六八二坪

二、七二八、〇〇〇

水巻町農業協同組合

三六、一、一〇設定

元本極度

一、〇〇〇、〇〇〇円

児島林

三六、一、一〇設定

元本極度

一、〇〇〇、〇〇〇円

五三〇、〇〇〇

8

同所字向屋敷二〇八三番地の三

田 一畝二七歩

二二八、〇〇〇

二二八、〇〇〇

9

同所二〇八八番地

家屋番号上々津役一二一番

木造スレート葺平屋建雑種家屋一棟

建坪一五坪七合五勺ほか一五棟

計 建坪五五三坪二合五勺

一六〇、〇〇〇

日本石炭株式会社

一九、一一、一八設定

元本 八〇一、九五五円

三三、五二三、三六〇

三、〇〇〇、七五〇

一、評価額の説明

(一)  <1>の加入権については、一本につき九万円として評価した。

(二)  <2>の加入権については、一本につき一四万円として評価した。

(三)  <3><4><5>の物件については、硬捨場予定地であつたため、換価が困難な土地であるので、固定資産税の評価額を参考とした。

したがつて、根抵当権の設定されているもの二、一〇〇坪については一万七、四〇〇円(二八、五四八坪分の二、一〇〇坪×二三万六、五六〇円)四、〇一〇坪については三万三、二三〇円(二八、五四八坪分の四、〇一〇坪×二三万六、五六〇円)および根抵当権の設定されていないもの、二二、四三八坪については一八万五、九三〇円(二八、五四八坪分の二二、四三八坪×二三万六、五六〇円)、計二三万六、五六〇円と評価した。

(四)  <6><7><8>の物件については、昭和三六年七月頃西日本鉄道株式会社の傍系会社である西鉄地所株式会社の売買実例および付近の住民数人に問い合せた結果、坪当り四、〇〇〇円として評価した。

(五)  <9>の物件については、所謂炭鉱住宅として荒廃しており、会社が居住者に対し右住宅は無償で提供するので、取りこわしの上他処に再築するよう申し出たとの例もあり、したがつて、換価の可能性は殆んどなく、一棟一万円として評価した。

二、市税充当見込額の説明

(一)  <1><2>の加入権については、質権が設定されてないので、計七九万円全額市税に充当できる。

(二)  <3>の物件については、抵当権が設定されていないもの、二二、四三八坪の一八万五、九三〇円については、全額市税に充当できる。

(三)  <4>の物件については、市税一二六万六、八二〇円(法定納期限等三五、四、三〇)が、中間市農業協同組合の根抵当権(三五、七、二八設定)に優先するので一万七、四〇〇円全額充当できる。

(四)  <5>の物件については、前記<4>の物件における市税が、桑園富夫の根抵当権(三六、一、一四設定)に優先するので三万三、二三〇円全額充当できる。

(五)  <6>の物件について

ア  福岡県労働金庫の抵当権(三五、三、三一設定)二、八〇〇万六、二一二円は、市税一二六万六、八二〇円(法定納期限等三五、四、三〇)に優先する。

イ  福岡銀行の根抵当権(三五、九、五設定)二億円は前記アの市税に劣後する。

したがつて、第一順位 福岡県労働金庫

二、八〇〇万六、二一二円

第二順位 市税(八幡区)

一二六万六、八二〇円

第三順位 福岡銀行

一〇万七、七六八円

計二、九三八万〇、八〇〇円

となるが、市税については、<4><5>の物件において既に他の根抵当権と競合した結果充当しているので、一二六万六、八二〇円から一万七、四〇〇円および三万三、二三〇円を差し引いた一二一万六、一九〇円を充当することができる。

(六)  <7>の物件については、水巻町農業協同組合等の根抵当権(いずれも三六、一、一〇設定)計二〇〇万円が市税二三二万一、一七七円(最も古い法定納期限等三六、三、一五)に優先する。

したがつて、評価額二七二万八、〇〇〇円から元本極度計二〇〇万円、利息一九万八、〇〇〇円(二〇〇万円×日歩一〇〇円につき三銭六厘×二七五日(三五、一二、一二から三六、九、一二まで))計二一九万八、〇〇〇円を差し引いた五三万円が市税に充当できる。

(七)  <8>の物件については、抵当権等が設定されてないので二二万八、〇〇〇円全額市税に充当できる。

(八)  <9>の物件については、日本石炭株式会社の抵当(一九、一一、一八設定)八〇万一、九五五円が<7>の物件における市税に全額優先するので、市税に充当することができない。

以上の結果、差押金額三五八万七、九九七円(滞納処分費一〇〇円は除く)のうち、昭和三五年度分一二六万六、八二〇円については、<4><5>および<6>の物件により全額充当することができるが、昭和三六年度分二三二万一、一七七円については、<1><2><3><7>および<8>の加入権等の合計額一七三万三、九三〇円しか充当することができない。

したがつて、差し引き五八万七、二四七円の不足となり、超過差押とはならない。

2、本件公売処分は超過公売処分ではない。

(1)  被告の原告に対する租税債権は全額原告主張の福岡銀行の原告に対する債権に優先する。すなわち、

本件差押物件には、被告の差押に対し訴外中間市が原告に対して有する滞納市税等債権に基づき昭和三九年四月一三日に、また、国が原告に対する滞納国税債権に基づき同年九月九日に、それぞれ参加差押をし、右各債権のうち原告主張の福岡銀行の抵当権付債権に優先する債権は、中間市の滞納市税等債権金三、二四四万三、五一〇円、国の国税債権金五六万三、九九七円、合計金三、三〇〇万七、五〇七円であつた。

ところで、地方税法第一四条の二〇はいわゆる「ぐるぐる廻り」と称される地方税、国税、私債権三者間の優先権が三つどもえになつた場合を立法的に処理するために設けられた規定であつて、その趣旨は国税徴収法第二六条と同一である。すなわち、国税徴収法および地方税法の規定によれば、地方税または公課(以下地方税等という)と国税を納税者の同一財産から徴収する場合に、右債権相互間の調整は差押先着手優先の原則(差押先着手主義)交付要求先着手優先の原則(交付要求先着手主義)などの原則によつて処理され(国税徴収法第一二条、第一三条、第一四条、地方税法第一四条の六、第一四条の七、第一四条の八)、また、納税者の同一財産について地方税等と担保付私債権が競合する場合は、地方税等の法定納期限と担保権の設定・登記の先後によつて優先順位を定め(地方税法第一四条の九、第一四条の一〇、第一四条の一一)、さらに国税と担保付私債権の調整も国税の法定納期限と担保権の設定・登記の先後によつて処理されることになつているのであるが(国税徴収法第一五条、第一六条、第一七条)、右のような原則では処理されない事例が生じた場合を解決するために本条が設けられたのである。納税者の同一財産の換価手続において地方税等および国税とその他の私債権が競合する場合に、前記の各原則を適用すればある地方税等は他の地方税等および国税には優先するも私債権には劣後し、当該私債権は他の地方税等および国税に劣後する場合、各債権の優先権が三つどもえとなつてその処理が不可能であるからこのような場合に本条が適用され、換価代金の配当は次のようになる。

(イ) まず第一号に定める国税、地方税等および私債権に対し常に優先すべき債権に配当する。

(ロ) つぎに、第一号に定める金額を控除した金額について、地方税等および国税と担保付私債権の優劣を定める基準としての法定納期限等と担保権の設定、登記の時期を比較し、その時期の古いものからそれぞれ順次に国税徴収法第二章または地方税法第一章第七節その他の法律の規定を適用して国税および地方税等ならびに私債権に充てるべき金額の総額をそれぞれ定める。

これは差押先着手主義、交付要求先着手主義等国税および地方税等相互間の優先順位に関する規定の適用を保留して、まず前述の個々の国税および地方税等と私債権との関係における優先順位により国税および地方税等のグループの取分と、私債権グループの取分の総額を定めるのである。つまり、それぞれのグループに充てる総額を定めるだけで個々の国税および地方税等に最終的に充てるべき金額を定めるものではなく、国税および地方税等のグループの中から前記の国税及び地方税等と私債権間の優先順位を定める原則によつて最も優先する債権を交互に出し合い、その二者の間で優劣を競い優先するものがその債権額だけを換価代金から自己の属するグループへ持ち帰り、これを順次くり返して各グループの総額を定めるというものである。

(ハ) 右により、国税および地方税等に充てられるべき金額として定めた総額につき、差押先着手主義、交付要求先着手主義等の原則によつて、個々の国税および地方税等に充てらるべき金額を定める。

(ニ) また、前記(ロ)により私債権グループに配当すべき金額の総額についても民法その他の法律の規定により個々の債権に配当すべき金額を定める。

(ホ) 本件差押物件については本件公売処分当時次のような租税公課および担保付私債権が競合していた。(左に記載する債権のほか第二順位の根抵当権に劣後する担保付債権が競合していたが、本件公売処分によつてなされた配当には全く関係がないので事実を簡明にするため省略する。)

登記、法定納期限の年月日

差押、参加差押の年月日

債権額

備考

<1>第一順位抵当権

昭和 年 月 日

三五、三、三一

昭和 年 月 日

三三、四九四、八四一

抵当権者

福岡県労働金庫

<2>地方税

三五、四、三〇

三六、九、一二

差押

三八七、四九〇

債権者北九州市

<3>国税

三五、三、九~

三五、四、一九

三九、九、一二

参加差押

五六三、九九七

〃国

<4>地方税

三五、四、三〇~

三五、八、三一

三九、四、一三

参加差押

二七、六一七、四四八

〃中間市

<5>公課

三五、五、三一~

三五、八、三一

三九、四、三

参加差押

四、八二六、〇六二

〃〃

<6>第二順位抵当権

三五、九、五

一、三六四、八五〇、七四一

抵当権者福岡銀行

<7>地方税

三六、四、三〇~

三八、一〇、二五

三八、一一、一三

参加差押

一三、〇二〇、五一八

債権者北九州市

<8>地方税

三八、七、三〇~

三九、一、三〇

三九、四、三

参加差押

二、四九二、一二五

〃〃

(ヘ) 前項でのべたところにより右債権の順位を定めると次のようになる。

(i) まず、第一号の規定により滞納処分費を配当する。

(ii) 次に、右の表の<1><6>の私債権グループと<2>ないし<5>、<7><8>の租税公課グループの中から、登記および法定納期限の時期の古いものから並べると右の表のとおりとなるので、右の順により各債権額を各グループへ持ち帰り、それが各グループの総額となる。

ところで本件差押物件の評価額は金四、一四四万九、三四五円であるが、右評価額のとおりの価格で公売されたと仮定し(仮りに滞納処分費は零とみても)配当すると、第一に私債権グループへ右表<1>の抵当権がその取分を持ち帰り、ついで、租税公課グループへ同<2>地方税および<3>国税がそれぞれその取分を持ち帰り、残額七〇〇万四、〇一七円を、同<4>地方税同<5>公課の各々の一部が租税公課グループへ持ち帰ることになる。

(iii) 右の配分によつて租税公課グループの総額は金七九五万四、五〇四円になり、これを個々の租税公課相互間で、差押先着手、交付要求先着手の原則により再配分すれば、他の地方税等および国税に先だつて差押および参加差押をした被告の租税債権である右表<2>地方税の全額および同<7>地方税の一部に充てられることとなり、最終的には本件公売処分により配当を受けた債権は全額株式会社福岡銀行の第二順位の抵当権に優先する。

故に、被告が右のような配当を予測してなした本件公売処分には超過公売の違法は存しない。

(2)  本件公売物件の見積価格は合計金四、六八七万七、八四五円であり被告の優先税額は金三七万八、四九〇円であるから超過公売であると主張するが、本件公売手続においては、一部の不動産については応札なく、また、最高価申込の取消が行われたため、本件差押物件全部について公売処分が行われたものではなく、一部の物件についての公売が行われたにすぎない。従つて、超過公売であるか否かは実際に公売が行われた物件についての価額を基準として判定されるべきである。本件公売処分において実際に公売処分が行われた物件についての見積価額の合計額は金三、三二九万二、四四五円であり、最高価申込額(競落価額)の合計額は金三、五三〇万九、〇〇〇円であつた。そして被告の原告に対する市税債権に優先する抵当債権額は金三、三四九万四、八四一円に達し、前記見積価額を超える。

ところで、差押当時の滞納税金はその後一部納付が行われたが、本件公売処分当時なお金三四九万〇、九八七円残つており、更に、差押後の滞納税金で参加差押のなされている税額を加えれば、公売当時の原告の滞納税額は金一、九〇〇万三、四三〇円に達し、前記売得金の残額をはるかに超過している。したがつて本件公売処分は超過公売に当らない。

なお、公売を取消した物件の評価額を計算に入れて算出しても超過公売とはならない。すなわち、公売を取消した物件の評価額を加算した評価額の合計額は金四、六八七万七、八四五円であり、その額と市税債権に優先する抵当債権額金三、三四九万四、八四一円との差額は金一、三三八万三、〇〇四円である。右差額から滞納処分費金八万五、〇〇〇円を差引くと金一、三二九万八、〇〇四円となるから、本件公売当時の原告の滞納税額金一、九〇〇万三、四三〇円と比較すると、その売得金は右滞納税額を下廻ることになり、超過公売と云うことはできない。

(3)  原告は別紙第一目録記載27、38および39の三筆の土地をことさらに除いて本件公売処分をしたと主張するが、そのような事実は全然存しない。

すなわち、右27の物件は本件差押物件とともに公売され、右38および39の物件も同様公売に付されたが最高価申込者神岡林が地方税法の諸規定(第三三一条、第三七三条など)によつて準用される国税徴収法第一一四条の規定により入札を取消したので、被告は右物件につき最高価申込者決定を取消したものであつて、本件公売において殊更除外した事実はない。

(4)  原告は超過公売の違法があるや否やの判定は、請求原因(二)1(ハ)記載の方法によるべき旨主張するが、被告の主張は前記2において述べるとおりである。

仮りに原告主張の方法を是認すべきものとしても本件公売処分は超過公売にあたらない。すなわち、前記(1)(ヘ)(ii)のごとく本件公売処分時における本件差押物件の評価額は金四、一四四万九、三四五円であり、右の時点における被告の原告に対して有する市税等債権の合計金額は一、九〇〇万三、四三〇円であるが、前記評価額から右市税等債権に優先する抵当債権(福岡県労働金庫の第一順位の抵当権)金三、三四九万四、八四一円を差引けば残額は金七九五万四、五〇四円となるからこの残額と前記市税等債権額とを比較すれば明らかに後者が前者を超過する。

四、被告の主張に対する認否および原告の反対主張

(一) 被告の主張はすべて争う。

(二)1、別紙第一目録記載27、38および39の三筆の土地を除くその余の三八筆の土地の評価額が仮りに正当であり、被告主張の第一順位の抵当債権を差引いた金額が金七九五万四、五〇四円であるとしても、被告の優先徴収金は金三八万七、四九〇円にすぎないので超過公売であることは明らかである。

2、地方税法第一四条の二〇は配当の順位を定めたものにすぎない。また、参加差押は交付要求の効力を有するにすぎない(国税徴収法第八六条第一項)。唯さきになされた差押が解除されたとき初めて差押の効力を生ずるものである。従つて参加差押債権者が独立して差押ならびに公売手続をなすことは許されないので、被告が本件差押物件に対し公売手続を実行するには私債権に優先する金三八万七、四九〇円をもつてのみなしうるものである。

五、証拠<省略>

理由

一、原告主張の経緯で公売処分がなされたこと(但し、換価代金の滞納税金への充当額の点を除く。)については当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第一〇号証によれば本件公売処分による換価代金から被告が配当を受けた金額は公売処分費金八万五、〇〇〇円および租税債権に対する配当額金一七二万九、一五九円合計一八一万四、一五九円であることを認めることができる。右認定に反する証拠はない。

二、そこで以下本件公売処分に取消事由があつたか否かについて検討する。

1、超過差押に基づく公売処分であるから違法であるとの主張について。

原告は差押処分の違法を本訴訟において主張することができると論ずるので、まずこの点から検討する。前記一に述べたように、被告が原告会社に別紙第二目録記載の滞納税金ありとして、昭和三六年九月一二日原告会社所有の別紙第一目録記載物件につき滞納処分として差押をなしたこと、その後被告は右差押に基づき同四〇年三月三一日公売を実施し、同年四月一日原告会社に対し最高価申込者決定通知書により通知したこと、ついで原告会社は同月三〇日北九州市長に対し右公売処分の取消を求めて審査請求したが同市長は同年五月二八日付裁決書により右審査請求を棄却したこと、については当事者間に争いないところである。地方税法第一九条の一二、第一九条、第一九条の四によれば滞納処分の取消しの訴えについてはいわゆる訴願前置主義をとり、不動産等についての差押えに関し欠陥があることを理由としてする不服申立はその公売期日等以後はすることができないこととされている。これら法条の趣旨は、差押が滞納税金の徴収を目的として進められる滞納処分手続を構成し、後行の処分を予想しその間に第三者が介入し権利若しくは法的に保護すべき地位を取得することがあるので、迅速に他と切離してその効力を確定させ、もつて滞納処分手続の安定を図ることにあると考えられる。そうだとすると、弁護の全趣旨により原告が差押処分については不服申立をしていないこと明白であるから、成立に争いのない甲第一〇号証によつて認められる売却をする日である昭和四〇年六月四日の経過と共に差押の欠陥を理由としてその取消しを求める権利を失つたものと云うべきである。しかしながら差押の欠陥がこれに後行する公売処分にも影響して公売処分の取消事由として主張しうる場合、たとえば差押えが当然無効である場合などがあることは当然である。ところで、本訴において原告が差押えの欠陥として主張するところは被告の原告に対する租税債権を超過する価額を有する物件を差押えたということである。地方税法第三七三条第三項、第三三一条第六項、第三七三条第七項、第五〇九条第六項、第五四一条第六項によれば、本件公売処分により徴収することとなつた地方税の滞納処分については、同法に特別規定あるものを除き、国税徴収法による滞納処分の例によるとされている。同法によれば差押処分と公売処分とは先行後行の関係にはあるが、差押物件即公売物件という関係に立つものではない。法文上も同法第四八条第一項においていわゆる超過差押を禁じて居り、公売処分については明文はないが公売処分が滞納処分の一環をなし租税徴収を目的とするものである以上、必要な限度を超えて納税者の財産権に干渉すべきでないことは勿論である。このことは同法第九八条が公売にあたつて見積価額の決定をなすべきことを命じ、同法第九五条において公売公告には公売物件を特定明記することを要求している点からも容易に窺うことができるところである。従つて差押と公売処分とは別個の処分であつて前者の違法が後者を違法ならしめる関係にあるものとは云えない。それ故に公売処分の取消を求める本訴においては差押の違法を主張することはできないものと解するのが相当である。

原告は更に差押について不服申立をしなかつたことについて行政事件訴訟法第八条第二項第二号又は第三号に当る趣旨の主張をしているけれども、地方税法第一九条の一三によれば前記同法第一九条の四の規定が訴えの提起について準用されることになり、本件訴提起が昭和四〇年七月八日であり、既に同条の期間を経過していることは明らかで前段に述べるところと同一の結論にならざるをえない。

2、超過公売の主張について

(イ)  被告の租税債権と福岡銀行の私債権との優劣

原告は原告会社が昭和三五年九月五日福岡銀行に対し別紙第一目録記載の不動産(但し、27、38、39の三筆を除く。)について設定した第二順位の抵当権によつて担保される債権に優先する被告の租税債権は金三八万七、四九〇円であると主張する。

弁論の全趣旨により成立の真正を認めうる乙第二号証、成立に争いのない甲第一〇号証乙第三ないし第六号証によれば、<1>(事実の一(1)(ホ)の表の例による。以下同じ)訴外福岡県労働金庫の昭和三五年三月三一日設定登記の第一順位の抵当権によつて担保される昭和四〇年三月二五日現在の債権額は金三、三四九万四、八四一円、<2>被告の法定納期限が同三五年四月三〇日の租税の同四〇年三月三一日現在の債権額金三八万七、四九〇円、<3>訴外国の同年三月二五日現在における法定納期限同三五年三月九日の国税債権金三一万三、一二七円、同じく同年四月一九日の国税債権金二五万八七〇円であつたこと、被告がその前記債権につき本件差押物件に対し昭和三六年九月九日差押を、訴外国がその前記債権につき同三九年九月九日より同月二二日までの間に交付要求を、訴外中間市がその前記各債権について同三九年四月一三日参加差押もしくは交付要求を、それぞれしたこと、また、<4>訴外中間市の法定納期限が同三五年四月三〇日より同年八月三一日までの租税の同四〇年三月三一日現在の債権額が金二、七六一万七、四四一円、<5>法定納期限同三五年五月三一日から同年八月三一日までの公課の前同日現在の債権額が金四八二万六、〇六二円、<6>訴外福岡銀行の同三五年九月五日設定登記の第二順位の根抵当権によつて担保される同四〇年四月一日現在の債権額は金一三億六、四八五万七四一円(但し、債権極度額金二億円)、<7>被告が同四〇年三月三一日現在において法定納期限同三六年四月三〇日から同三八年一〇月二五日までの地方税総額金一、三〇二万五一八円については同三八年一一月一三日に、<8>前同日現在における法定納期限が同三八年七月三〇日から同三九年一月三〇日までの地方税債権総額金二四九万二、一二五円については同三九年四月二日に、それぞれ参加差押をしたことを認めることができる。

国税および地方税等ならびに私債権が競合する場合において、租税公課の徴収の確保の要請と私債権に対する国家もしくは公共団体からの無用な干渉の排除の要請とを妥当に解決すべく設けられたのが地方税法第一四条の二〇(および同趣旨の国税徴収法第二六条)である。地方税法、国税徴収法等は前記法条の外にこれら債権間の優劣について規定しているが、それらをもつてしてはまかない得ない場合が生ずるのをさけることができないので、かかる場合に備えて設けられたものである。地方税法第一四条の二〇は前記三種の債権が各他の一方には先だち他の一方にはおくれる関係にありしかもそれが循環的になる場合であるために優先順位を定める必要が生ずるわけである。そこで前記法条第一号において強制換価手続の費用、直接の滞納処分費および特殊な債権についてその種類と順位を明らかにし、第二号において上記三種の債権を租税公課群と私債権群に分ちそれぞれに配当される総額をまず定めることとし、法定納期限等又は設定、登記、譲渡若しくは成立の時期の古いものからそれぞれ順次に地方税法第七節又は国税徴収法その他の法律の規定を適用して、各群内において終局的にどのように配当されるかを度外視して定めることにしている。そして第三号において租税公課群の中での配当順位を、第四号において私債権群についてのそれを定めて居る。これを本件の場合について考えると、まず第一に滞納処分費を配当する。ついで私債権群に前記<1>の額を、租税公課群に順次<2>ないし<5>を、私債権群に<6>を、租税公課群に<7><8>の額をそれぞれとることになる。これによつて両群に配分される総額が定められることになる。そして本件の場合公売物件につき被告のなした評価額は金四、一四四万九、三四五円であり、その評価額の当否については後段説示するが、右評価額は相当なものと判断する。そうすると、右評価額で競落されたときは、群別配分の際に<4>のうち金七〇〇万三、〇一七円まで考慮されることとなり、私債権群では<1>の金三、三四九万四、八四一円がその総額となり、租税公課群は<2><3>の全額および<4>のうち前記の額の総計金七九五万四、五〇四円となる。

そして、租税公課群内で優劣をきめるに当つては地方税法第一四条の六により被告の<1>が、ついで同法第一四条の七により被告の<7>の一部金七五六万七、〇一四円がその余の租税公課に先だつて換価代金より配当をうけることが出来ることになる。すなわち、右のごとく両群の調整をすると結果的には被告の租税債権が昭和三五年四月三〇日を法定納期限とする金三八万七、四九〇円のみならず、法定納期限が訴外福岡銀行において根抵当権設定登記をした後である租税債権の一部も訴外福岡銀行の債権に優先して配当をうけることになる。原告は被告の主張に対する反対主張(事実三(二))において被告の優先して徴収しうる額は金三八七、四九〇円にすぎないことを前提にして超過公売であると主張するが、その前提は以上の理由により採ることができないので、右前提に基づく主張は理由がない。また原告は地方税法第一四条の二〇は配当の順序を定めたにすぎず、参加差押は交付要求の効力を生ずるにすぎないとして被告の優先して徴収しうる額は前記金額であると主張するが、これまた採用することはできない。

本件差押物件の公売処公時における評価額の当否について考察する。成立に争いのない甲第七号証、証人国弘三郎の証言により成立の真正を認めうる甲第一六、一七号証証人進藤素男および同国弘三郎の各証言を綜合すると、本件公売処分のため被告が昭和四〇年三月二〇付で原告宛公売通知書を発送したが、その記載によれば別紙第一目録記載の不動産を被告が総計金四、六八七万七、七八〇円と見積つていたこと、右総計算出に当つては土地を六群に分ち、その各合計額を出しその総合計をもつて総額としていること、一方同月二七日付で原告の依頼により同一不動産を鑑定した三井信託銀行株式会社北九州支店は評価額総額を金五、七七三万三、七二二円と見積つていること、この算定にあたつても被告の場合と全く同様に区分し、各群の評価額を算出しその総合計をもつて総額としていること、右三井信託銀行北九州支店は、評価意見として、地目とは無関係に総て宅地として価格査定をし、その際に市場資料比較法により、また北九州市宅地価格調査会の資料を参照し、世評も考慮のうえ仲値を採用し、更に福岡国税局相続財産路線価指数、同業者および諸官公署の意見を聴取し、当該土地の物的、経済的、行政的側面を参酌し、整地費等勘案し評価目的に最も妥当とされる価格を査定した旨明記してあること、また、一般に公売に当つての見積価格と公売価格とでは後者が高価であること、を認めることができる。右認定事実によれば見積価格の算定に当つては、主観的要因、不確定的要因を排除することが出来ないのに加えて価額算定の目的により左右されざるをえないものと云う外はない。被告の見積価額と三井信託銀行北九州支店の評価額を比較すると、後者は前者に比較して大約二割高にとどまり、評価が不確定的要因により左右されることを考えるとむしろ当然予想される範囲内にとどまると見るのが相当である。仮に原告の依頼に基く評価をもつて妥当としても、被告のなした見積が著しく妥当を欠くものと云うことはできない。そうすると被告のなした見積額の決定は相当なものとして是認されるべきである。

(ロ)  超過公売か否かは実際に公売された物件についての見積価額を基準として判定すべきであるとの被告の主張について、

別紙第一目録記載38、39および40、41の土地については最高価申込者がその申込を取消したことについては当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一〇号証、乙第七、八号証、前顕乙第九号証、証人進藤素男、同国弘三郎の証言によれば、同目録記載3ないし11の土地については応札がなかつたこと、そのためにこれら土地は競売されなかつたことを認めることができる。しかしながら超過公売か否かの判断は見積価額と租税債権額との比較によつてきめるのが相当である。国税徴収法が超過差押を禁ずる趣旨はひとしく公売についても推及されるべきことは前に説示したとおりである。しかして若しも実際に公売されたものについてのみ考慮すべきであるとの見解をとるならば、公売処分が違法であるか否かは売却決定があるまで確定しないことになり、それまでの間に租税債務者の権利を無用に侵害する結果を生ずるおそれがあるからである。もつとも、公売手続の進展に伴つて最早原告としては取消を求める訴の利益が消滅する場合は考えられるであろう。しかしながら、本件においては当然に実際に公売された物件の見積価額のみと比較すべきであるとの被告の主張を支持することはできない。

そこで公売を取消した物件の評価額を算入した場合について検討する。その評価額が金四、六八七万七、八四五円であり、被告の租税債権に優先する抵当債権額が金三、三四九万四、八四一円であることはさきに説示したところである。ところで前者より後者を控除した額が金一、三三八万三、〇〇四円であることは計数上明らかである。成立に争いのない乙第六号証によれば滞納処分費が金八五、〇〇〇円であることを認めることができる。そして地方税法第一四条の三によれば滞納処分費は換価代金につき他の地方団体の徴収金、国税その他の債権に先だつて徴収することができるのであるから、これを更に控除すると金一、三二九万八、〇〇四円になる。そして本件公売当時の原告に対する租税債権額が金一、九〇〇万三、四三〇円であることは成立に争いのない乙第一号証により認められるところであるが、右金額中には差押にかかる租税債権のみならず参加差押にかかる租税債権をも含むことは前記証拠から認められるところである。そうすると他の国税等および私債権の存在することは既に述べたとおりであるから、これら競合する債権の調整を図るべきことになり、直ちに公売処分時の滞納税額と比較するのは正当でない。しかして競合する債権の調整をした場合において本件公売処分が超過公売に該らないことは既に説示したとおりである。

(ハ)  原告は別紙第一目録記載27、38および39の三筆の土地をことさら除いて本件公売処分をしたと主張するが、前顕甲第五号証、第一〇号証、証人進藤素男の証言によれば前記27の土地は競売に付され、38および39の土地については訴外神岡林が最高価申込者決定を受けたのち右申込を取消したことが認められる。原告の主張は理由がない。

(ニ)  超過公売か否かの判断に当つて参加差押、交付要求を考慮すべきではないとの主張について。

交付要求、参加差押をした場合に、その効力として配当要求の効力を生ずることは、かかる制度を採用する以上これを認めない限り無意味になるであろう。その例によるものとされる国税徴収法第一二九条第一項第二号は換価代金等を交付要求を受けた国税、地方税及び公課に配当する旨明記している。滞納者の財産について強制換価手続が開始されたときは、執行経済の見地から交付要求をなすべきことを要求し、また現行国税徴収法の下においては参加差押の制度を認めた趣旨から見て二重差押を許さないものと解せられる。強制換価手続を執行する機関は公売処分を執行する限り交付要求、参加差押にかかる債権の実現を図る責務を有するものと解するのが相当である。このことは参加差押債権者が独立して差押ならびに公売手続を執行するものでないことは勿論である。この点においても本件公売処分に違法な点はない。

三、以上に述べた理由により、本件公売処分に違法な点は認められず適法なものと云うべきであるから、原告の本訴請求は理由がなく失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中池利男 小林隆夫 斎藤清六)

(別紙目録および別表省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例